MQA-CDのいろいろ

1000円でCDとMQA-CDの聞き比べができる、ユニバーサルミュージックの2枚組サンプラー。邦楽バージョンも9月に追加発売されて全4タイトルとなった。
1000円でCDとMQA-CDの聞き比べができる、ユニバーサルミュージックの2枚組サンプラー。邦楽バージョンも9月に追加発売されて全4タイトルとなった。

 

■MQA-CDの正体は?

 

従来からMQAは新しいフォーマットではない。あくまでPCMのファイルである、と説明されてきました。そして、いよいよMQAエンコードされたコンパクト・ディスクの販売が静かに加速してきました。フォーマットとしてMQAPCMと同一フォーマットであるからこそ実現できたことです。

 

過去にはオーディオビジュアルの新しい技術の黎明期に、まずハードが先行してもソフトが無いという状況がありました。しかしMQA-CDについては逆にソフト企業が先行して参入しています。その理由として、まずソフトメーカから見て、従来のCDと完全互換性があったことが大きなポイントだったでしょう。しかし重要なことは音質上の明らかなメリットがレコード会社やレーベル、録音エンジニア、アーチスト側から認められたことです。こうした安心感と革新性の2つ要素を両立させたこともMQA-CDのきわだった特徴です。伝統と革新を重んじる英国らしいテクノロジーと言えるかもしれません。

 

MQAは、オリジナルのハイレゾ音源をコンパクトにするために、「音楽のオリガミ」と呼ばれる手法を用いています。例えば176kのファイルならまず半分に折りたたみ88Kにします。次にまた半分におりたたみ44kに変換する、というプロセスを踏んでいます。すなわちMQAーCDのマスターは44kの整数倍のマスターから作られています。

 

実際に現在、市販されているMQA-CDを見てみると、3種類のマスターから作られています。新録音のもので例えば、邦楽の新譜で初めてのMQA-CD発売を英断した南佳孝さんの《Dear My Generation》のMQA-CDは、88kHz24bitのPCMマスターです。また世界初のMQA-CDである日本のUnamasレーベルの《A.Piazzolla by Strings and Oboe》は176kHz24bit。早くからMQA-CDをリリースしていたノルウェーの2L(トゥエル)作品はすべて352kHz24bitです。

 

実際、南佳孝さんのアルバムを通常のCDプレーヤーで再生してもその音質の良さには少なからず驚く人が少なくありません。これは、従来のCDを作るプロセスで生じていた、膨大な時間軸のボケや滲みをコントロールされているからとMQAでは説明しています。

 

南佳孝さんの『柔らかな雨』の冒頭で雨音が使われているのですが、今までのデジタルでは、こうした波や雨など自然音は苦手でした。時には単なるザーという不自然なノイズにしか聞こえないこともあったのですが、今回の雨音は自然で情緒的な雨音です。人間が聴いてより自然に、立体的に感じとれる音が再現できる、このMQAの特長をうまく生かした素敵な演出だと感じました。ちなみに、南佳孝さんの新アルバムではサラウンドも制作されたのでオリジナルは96k24bitで録音して、そこからMQA-CDのために88k24bitのマスターを制作されたそうです。(e-onkyo musicでも発売中)

 

MQAーCDで色々な種類のディスクを聴くにつけ、マスターの周波数の違いよりも、録音そのものの質が問われるという「アナログ時代の当たり前」が、やっとデジタルの世界でも証明され再確認することができました。これがMQAの良さだという印象を強く持ちます。これが録音のクオリティやマスタリングの腕前に自信のあるレーベルがMQAやMQA-CDに意欲的である理由の一つなのかもしれません。世界初でMQA-CDをリリースしたUNAMASの沢口さんが述べていらっしゃる通り、MQAはマスターの音を良く補正できる魔法の技術ではありません。おそらく近々、自信と誇りを持って良質な録音作品を作っているレーベルやアーチストが大小を問わず今後も参入してくるものと思います。

 

次にアナログ録音の作品は、どうやってMQA-CDにするのか。DSD録音の場合はどうなのでしょう。これも同様に、MQAもしくはMQA-CDにするには、やはり一端はPCMマスターを経なければなりません。例えばユニバーサルミュージックから発売されている《ハイレゾCD名盤シリーズ》は、すべてオリジナルはアナログ録音です。これをすでに高品位なDSDでマスタリングされたマスターがユニバーサルジャパンにありました。これを今回は色々なプロセスを試して最終的には352kHz(DXD)にPCM変換してMQAマスターとしたそうです。整理するとアナログマスター >DSDマスター >DXD352kHz24bit >MQA-CD44.1k24bit というプロセスになります。また、アメリカのレーベル、チェスキーでは、アナログ録音からダイレクトにPCMマスターを起こしてMQA-CD化している作品も販売されています。

 

 


 

 

■バリエーションの広がり

 

MQA-CDの登場からもうすぐ2年。ここに来てCDという慣れ親しんできたメディアが再注目されていることは、大変に嬉しい限りです。何しろカセットテープやビニールレコード、真空管などがブームになったり注目される中で、どうも最近CDの存在感がどうも薄くなっているからです。ちょっと過小評価されすぎているのと思う今日この頃であります。ただ、ネットから離れて街のタワーレコードや山野楽器などCDショップに行くと、MQA-CDコーナーはとても「元気」です。

 

さて、『MQA-CDのいろいろ』について書いてきましたが、忘れてはいけないのが、そのパッケージ形態の多様さです。CDと全く同じ構造なので、当然ながらCDと同じように色々なタイプが発売されています。オーディオ好きな方のために少しだけ触れさせていただきます。

 

まずは、普通のディスクと物理的に同じ仕様でエンコードだけMQAプロセスで制作されたMQA-CDが、前述した南佳孝さん、ボブ・ジェームス、オクタヴィアの名倉雅人さんなどの作品です。MQA-CDと普通のCDのダブルレイヤーですか?という質問を受けたことがありますが、単純にシングルレイヤーのCD仕様のものです。CDプレーヤーでは再現されないローレベルの領域に、ハイレゾ成分の情報が折りたためれて収められているので、MQA対応のアプリ、ハードによりハイレゾ再生もオプションとして可能になっています。

 

少し脱線しますが、まれに隠れMQA-CD?とも思えるディスク(写真下)も見つけました。大人の事情なのか詳細理由は不明なのですが、ジャケットやディスク面にはMQA-CDの表記が全く見当たらないないのです。しかもアマゾンの商品画面上でも特に表記がありません。しかし実際にはMQAエンコードされているディスクなのです。単純に高音質なCDを制作する手段としてMQAエンコーディングを行ったのかもしれません。クレジットを調べると録音はAir StudioでマスタリングはGetewayマスタリングスタジオという立派な布陣。レーベルはワーナークラシック系列でした。

 

STEVE REICH

Pulse/Quartet


 

 

さて、次にSACDとMQA-CDのハイブリッド盤について触れたいと思います。SACDこそ元祖ハイレゾ・ディスク。これとMQA-CDを1枚で両方とも楽しめるのが、このハイブリッド盤の特長です。前述したノルウェーの2Lはこのハイブリッドディスクを続々と発売しています。

 

また、ディスクの保護層の素材面でもCDと同様のバリエーション展開が可能になります。現在のところ、信号層の反射率を上げて読み取り性能を良くするUHQCDという仕様を採用したMQA-CDがあります。ユニバーサルの「ハイレゾCD」がこれに該当します。ユニバーサルさんによると、MQAエンコードだけでなくプレス仕様にも最高のものを採用することで、究極のCD音質を実現させたかった、とのこと。発売タイトルもコレクションにふさわしい名盤ばかりです。(UHQCDの詳細はこちら)

 

 

音楽をコレクションとして楽しんできた世代にとって、SACDやCDはこれからも、かけがえのない存在です。そこにMQA-CDが静かに仲間入りを果たしています。またCDを卒業して音楽ファイル再生に移行している方にとってもMQA-CDはひとつの選択肢として注目されていると思います。HDDやNASへのバックアップする心配がありません。またパソコンで取り込んでしまえば普通のPCM音楽ファイルとして再生できるので「利便性」にも優れていると言えるのではないでしょうか。アプリがなてくもDAPやスマホ上に転送すればCD以上の音質で再生することはできるからです。

 

何にしろデーター量、転送レートが軽いことはMQAの最大のメリットで、352k24bitマスターのディスクでもMQA-CDならトイレに行っている間に、あっという間にパソコンへの取り込みが終わってしまうのです。ご興味があれば、iTunesでMQA-CDを取り込む方法はこちらの記事を参考にしてください。ちなみに、元のマスターがDXDでも、88kでも収録化棒な時間には影響がありません。まれにCD規格の収録時間をオーバーしているアルバムもありますが、CDとして問題なく収録されるのであれば、MQAーCDでも同様だとMQAでは説明していました。

 

最後にMQA社が充実したMQA-CDの専用ページを立ち上げたのでご紹介しておきたいと思います。何せ技術ライセンス会社のサイトなので少し固い説明が目立つ部分もあるのですが、音楽を楽しむ道具の一つとして彼らが目指しているところを感じてとっていただければ幸いです。(英文サイトですがブラウザーのChoromeをお使いの方は、画面上を右クリックすると補助的な自動翻訳が使えます)

 

また、小社のホームページでも、MQA-CDソフト情報を定期的にアップしてまいります。どうぞご覧ください。

 

http://www.mqa.co.uk/customer/mqacd