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曲目解説の続き

 

ショルティの演奏で聴く第4楽章「アダージェット」は、マーラーの記した楽譜に忠実に、ショルティが目力でもって、オーケストラ・メンバーを常に刺激し続けた結果、出来上がった音楽である。それにしても、聴く方からすると、とてもロマンチックに聴こえる。

 

それは、ショルティが、楽譜に忠実に指揮をしていて、マーラーの書いた楽譜に、たっぷりとロマンチックな音楽が記譜されているからに他ならない。プロフェッショナルな腕利きの職人の集団、シカゴ交響楽団は、ロマンチックな演奏だけを心がけたというよりも、譜面に書かれた、音符の長さ、楽器と楽器の交わり方、だんだん大きくなったり、小さくなっていったりする音量を、きわめて忠実に守ることにより、聴いている私たちには、さらりとしていて、しかも、それでいて、とてもロマンチックに聴こえてくるのだった。

 

ゆっくりのメロディーに身を任せて聴くというのは、ちょうど、ベニスのゴンドラに乗って波間に揺られているような極上の気分なのである。それもそのはずで、この楽章は、作曲当時、才気煥発の美貌の女性アルマ(1879-1964年)を妻に迎えたばかりの時期と重なり、第4楽章アダージェットを妻アルマに捧げているのである。

 

第5楽章、この曲は、どうやって終わりをみせるのだろうか? 

 

第5楽章でも、マーラーはとっておきの工夫をみせている。なんと音楽の父である大バッハ(1685-1750年・ドイツ)が編み出し、完成させたといわれる「フーガ」という技法を用いて、終楽章にふさわしい大団円を創り出している。ホルンの輝かしいソロに続いて、クラリネット、ファゴットで始められるが、やがて、木管楽器に続いて、弦楽器群によって、テーマが次々に、細かく細かく転調しながら、テーマを追いかけていくという図式になっている。

 

ついには、いきいきとした金管楽器が、全員で待ち構えていて、小刻みな動きを見せる弦楽器群や木管楽器群と融合して、うねりを続け、しまいにはとうとう壮麗な一大シンフォニーを作りだしクライマックスには輝かしい頂点に向かってひた走り、一気に駆け抜けていく。まるで、極彩色のきめが細かい曼荼羅と出会ったような、神々しい気持ちにさせる。

 

ショルティのテンポは、常に小気味よく、過去を振り返るのではなく前へ前へと歩を進めている。楽器の音が分離良く粒立っていて、思い切りの良い指揮ぶりが、オーケストラ全体の輝かしさに彩りを添えている。

 

ショルティは、録音の後彼の自伝のなかで、シカゴ交響楽団をこう評している。「素晴らしく豊かな低音群と金管セクション、オーケストラは技巧面で限界を知らない。唯一限界を左右するのは指揮者の想像力と演奏にかける奏者たちの意欲だった。オーケストラの際だった質の高さが、私の仕事のやり方を変えた」(ゲオルグ・ショルティ著「ショルティ自伝」木村博江訳 1998年・草思社刊より)

 

『ショルティ自伝』は、力強い指揮ぶりと同じく、過度に自分を飾り立てることをせずに、いい悪いを率直に述べて、いかにも実直そのもののショルティらしい書きぶりである。ショルティは、この自伝の最後のチェックを自分で行った直後、1997年9月5日、南フランスのアンティーブで就寝中に心筋梗塞のためこの世を去った。84歳だった。墓はブダペストにある敬愛する同じハンガリーの作曲家ベラ・バルトーク(1881-1945年)の墓の隣で静かに眠っている。

 

 

Sir George Solti 6  Allan Warren 過度に自分を飾ることなくショルティらしい実直な人柄も多くのファンから支持されている。
Sir George Solti 6 Allan Warren 過度に自分を飾ることなくショルティらしい実直な人柄も多くのファンから支持されている。

 

なお、亡くなるおよそ3ヶ月前、1997年7月13日、ラスト・コンサートとなったスイス・チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団との演奏会でショルティが指揮したのは、やはりマーラー交響曲第5番だった。

 

文:野村和寿

 

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清々しさがあってみずみずしく心のこもった女声にうっとりと聴き惚れる

 

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参考資料

 

『ショルティ自伝』

(ゲオルグ・ショルティ著 木村博江訳1998年・草思社刊)

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マーラー:交響曲第5番 

ゲオルグ・ショルティ指揮 シカゴ交響楽団

録音19703

 

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トラック1 1楽章 

葬送行進曲(以前ある歩調で、厳格に、葬列のように)11:59

 

トラック2  2楽章 

嵐のように激動して、最上の激しさをもって 13:50

 

トラック3  3楽章

スケルツォ(力強く、速すぎずに)16:43

 

トラック4  4楽章

アダージェット(ゆるやかによりやや速く)という意味。9:50

 

トラック5  5楽章

ロンド・フィナーレ(アレグローアレグロ・ジョコーソ いきいきと)13:44

 


執筆者紹介

雑誌編集者を長くつとめ、1975年にカール・ベーム指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本公演のブラームス交響曲第1番の最終楽章で、鳥肌が立ち、帰り道をさまよった経験を持つ。爾来、クラシックを生涯の友として過ごしてきた。編集者時代、クラシック以外のロックやジャズといったジャンルのアーティストと交流を深めるうちに、クラシックと、楽しさにおいて何も変わらないことに確信を持つ。以来、ジャンルを取り払ってハイレゾまで、未知なる音の発見の喜びを日々捜している。MQAを提唱しているイギリス・メリディアンには1991年以来2回オーディオ雑誌の取材で訪れ、基本コンセプトに魅せられた。またカメラ好きでもあり、特にドイツの光学製品に魅せられ、ライカのカメラ群とそのレンズの蒐集に執念を燃やしている。

 


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