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 〈第1幕 解説の続き〉

 

トスカは、カヴァラドッシの慌て方をみて、礼拝堂内で、彼が、女性と浮気をしていると疑います。つまり茶色い目と髪の女性と浮気をしているところを、トスカが急に飛び込んできたものだから、カヴァラドッシはすっかり慌てたのだと。

ジャコモ・プッチーニ(1858−1924年) 歌劇『トスカ』1899年プッチーニ41歳の頃の作曲、1900年イタリア・ローマ・コンスタンツ劇場で初演されました。wikipedia
ジャコモ・プッチーニ(1858−1924年) 歌劇『トスカ』1899年プッチーニ41歳の頃の作曲、1900年イタリア・ローマ・コンスタンツ劇場で初演されました。wikipedia
現在はフランス大使館になっているファルネーゼ宮殿
現在はフランス大使館になっているファルネーゼ宮殿

 

一方、カヴァラドッシは、脱獄犯アンジェロッティを匿まっていることを、トスカに言うことができないでいます。どうしてかというと、トスカ自身は敬虔なカトリック信者であり、いってみれば、反共和派側ともいえる庶民の一人なのです。ですから、脱獄囚アンジェロッティはいうなれば「敵」なのです。そこでカヴァラドッシはアンジェロッティのことを隠そうとするわけですが、隠せば隠すほど、トスカには「髪の毛が茶色の婦人」との浮気がばれてあわてているように、ますますみえてしまうのでした。トスカは嫉妬心をもちます。とにもかくにも、カヴァラドッシは、トスカをなだめると、トスカも「2人の愛の家に行きたくないの?」(トラック4の途中)と歌い、2人は、トスカとは夜に小屋で会うことを約束します。

 

トスカが席を外した隙に、カヴァラドッシは、アンジェロッティに、隠れ家の場所を教えます。教会の裏の庭から小径をいけば、自分の小さな小屋にたどりつくので、そこの井戸へ隠れているようにと、アンジェロッティにいいます。

 

サンタンジェロ城でアンジェロッティの脱獄を知らせる大砲が鳴り渡ります。

追っ手が迫っていることを察知したカヴァラドッシはアンジェロッティとともに教会の裏口から自分の別荘へと向かうのでした。

 

そこへ、「教皇派・反共和派のオーストリア軍が、マレンゴの戦いでフランス軍に勝利した」という報が教会にもたらされます。教会では、合唱団の子どもたちといっしょに、お祝いの祝勝ミサ曲『テ・デウム』を歌おうということになります。

 

そこへ、ローマの警視総監として赴任したばかりの、スカルピア男爵(バリトン=ティト・ゴッビ)が登場します。スカルピアは、脱獄犯アンジェロッティを捕まえにきたのでした。

 

教会の堂守は、アッタヴァンティ家の礼拝堂で、アッタヴァンティ家の紋章の入った扇子を見つけ出します。もともと歌姫トスカに少なからず興味を抱いていたスカルピアは、たくみにトスカにつけ入ろうとして、「アッタヴァンティ絵の紋章の入った扇子こそはカヴァラドッシの浮気の証拠だ」と、カヴァラドッシの浮気をことさらに騒ぎ立て、トスカの嫉妬心を倍増させるのです。トスカは泣きながら教会を後にするのでした。

 

教会堂には、戦勝を祝う『テ・デウム』が、子どもたちや信者たちの合唱によって、流れる中で、部下にアンジェロッティの行方を捜すように命令したスカルピアは、「これで、トスカの嫉妬心を煽り、トスカを自分のものとし、自分の腕で引き寄せることが出来る」とうそぶくのです。(バリトン役のスカルピアの歌う『行けトスカよ。私は嫉妬という名の鷹を放った』(トラック10))。

 

このシーンがすごいのは、バック・コーラスで神様への厳かな合唱曲「テ・デウム」が流れるなかで、まったく性格の異なる音楽、まさに人間の業のような、悪役スカルピア(バリトン)のカラスをものにしようと企む好色ぶりを音楽として、オーバーラップさせるというところが、作曲者プッチーニの描く凄さだと思います。

 

(第1幕 トラック1からトラック10 総演奏時間42:53)

 

 

第2幕

 

ローマの中心部カンポ・ディ・フィオーリ広場のそばにあるファルネーゼ宮殿。現在も実在する宮殿で、(フランス共和派と教皇派・反共和派の戦いの舞台が、今は駐イ・フランス大使館になっています。なんと皮肉なことでしょう。)

 

宮殿の中庭では、教皇派・反共和派の勝利を祝うコンサートで、踊りの曲ガヴォットに続き新しく作曲されたカンタータが披露されています。歌姫は、もちろんトスカその人です。トスカは、1幕で「この小さなコンサートが終わったら、カヴァラドッシの小屋へ二人して行こう。きっと星空がきれいよ」といっていました。ファルネーゼ宮殿の3階には、警視総監スカルピア男爵の執務室がありました。

 

第2幕はスカルピアの一言ではじまります。「トスカは素晴らしい鷹だ!」(トラック11)

 

スカルピアは、「コンサートでカンタータを歌い終えたら、スカルピアのところに来るように」というトスカへの手紙を、部下に託します。コンサートが終わり、トスカは、スカルピアから送られた手紙を読み、スカルピアのもとへ。スカルピアが、トスカに、扇子の件を再び持ち出して、別荘でカヴァラドッシは逢い引きをしていたのか?とトスカに問いただすと、トスカは「それは馬鹿みたいな焼きもちでした」と。カヴァラドッシのことを疑った自分を悔いるトスカでした。

 

スカルピアの警視総監室、その隣には、隠し窓のある小さな取調室。そこへ、スカルピアの部下スポレッタ(テノール=アンジェロ・メルクリアーリ)がやってきて、スカルピアに報告します。スポレッタは、1幕の後、トスカの後をつけていき、カヴァラドッシの別荘をみつけ踏み込んだのでした。「脱獄犯アンジェロッティはみつかりませんでたが、逃走を助けた、画家カヴァラドッシを捕まえました」とカヴァラドッシを連行してきます。

 

スカルピアは、アンジェロッティの居場所を尋問しようと、カヴァラドッシに対して部下に別室で激しい拷問を命じます。ムチ打ちの苦痛に耐えながらも叫び声をあげるカヴァラドッシ。しかし、意地でも、脱獄犯アンジェロッティの居場所を吐こうとはしません。

 

スカルピアは恋人であるカヴァラドッシへの拷問の様子を、トスカに戸を開けて聴かせるのです。苦悶の叫び声を、やめさせようとするトスカですが、拷問はますます激しさを増していきます。スカルピアは、トスカにもアンジェロッティの行き先を問い詰めていきます。

 

トスカは、あまりのカヴァラドッシへの拷問の厳しさに、耐えきれなくなり、とうとう「アンジェロッティは、小屋の井戸のなかにある穴の通用口に匿われている」旨をしゃべってしまうのです。(トラック17)

そしてトスカはスカルピアに向かって言い放つのです。「アッサッシーノ!(人殺し!)」

 

カヴァラドッシは、拷問から解放されますが、トスカが、「アンジェロッティの居場所をスカルピアに話してしまったこと」に激怒します。スカルピアの部下たちが、アンジェロッティの隠れ場所に急行してみると、アンジェロッティは、すでに自分の行方末をはかなんで自殺した後でした。

 

そのとき、「イタリア北部マレンゴの戦いで、反共和派がナポレオン率いる共和派を破ったというのは誤報で、実は、反共和派は、敗れた。共和派が勝利した!」という報がもたらされます。共和派の勝利に、喜びをいっぱいに表すカヴァラドッシ。「勝利だ!勝利だ!」(トラック17の途中)

 

反対に、反共和派のスカルピアは、この報に、逆上し、カヴァラドッシを即刻絞首台へ送るようにと命令し、死刑の宣告をします。カヴァラドッシは引っ立てられ収監されのでした。

 

トスカは、愛する恋人カヴァラドッシの死刑宣告をやめるようにと、スカルピアに懇願します。その代償として、トスカは賄賂を差し出そうとするのですが、好色なスカルピアにとっては、はした金より、かねてから狙っていたトスカの肉体を要求するのでした。スカルピアにとっては、トスカの輝くばかりの肉体の提供が目前に迫り不敵な笑みをみせるのでした。(トラック18)

 

幼少の頃よりカトリック教会で育った敬虔な歌姫トスカにとって、自分の肉体をスカルピアに捧げるということは、どうしても耐えがたいことでありました。トスカがここで歌うアリアが、最もこのオペラで有名な「歌に生き、愛に生き」(トラック19)です。歌姫トスカは、「今までの人生の中で神様に悪いことなど何もしてこなかったし、ひとえに神様に仕えて精進をする毎日と、神様のために歌う日々を送ってきたのに、なぜ神様はこんなにひどい仕打ちをなさるのか?」と自分の不幸を嘆くのです。

 

スカルピアは、部下のスポレッタに、「カヴァラドッシの処刑を、絞首刑でなく、サンタンジェロ城屋上の処刑場で、銃殺による刑に変更すること」を命令します。しかも、トスカの前で、「銃殺のときの銃の弾は、入れず、空砲にすることを命令する」のです。(トスカは喜びますが、実は部下のスポレッタは、実際は空砲でなく、弾の入った銃殺で臨むことを既に知っているのですが、トスカの前では、あくまでも「みせかけの処刑」のふりをします)

 

トスカは自分の肉体を差し出す代わりにトスカとカヴァラドッシの通行許可証を要求します。心はトスカのことでもういっぱいになったスカルピアは、トスカのために通行許可証にサインをします。ついに・・・その時はやってきます。

 

トスカを手籠めにしようと、トスカに近づいてくる好色なスカルピアに、咄嗟に食卓テーブルにあった肉切りナイフをスカルピアの心臓めがけて突き立てました。

 

油断したスカルピアは、苦悶の表情をみせ悶絶し、とうとう死に至るのでした。トスカは、「この男の前で全ローマが震え上がっていたのね。これがトスカの接吻よ」と言い放ちました。血の海と悪漢スカルピアの変わり果てた姿を見届けたのです。信心深いトスカは、カトリック流に、死者に十字架をかざして霊を弔うことを忘れませんでした。(トラック21)

 

(第2幕 トラック11からトラック21 総演奏時間37:40)

 

 

ローマの中心を流れるテヴェレ川の畔に建つサンタンジェロ城 wikipedia
ローマの中心を流れるテヴェレ川の畔に建つサンタンジェロ城 wikipedia

 

第3幕

 

夜明けが近づいた薄明かりの中、遠くでは牧童の清らかな歌声が聴こえてきます。(トラック22)サンタンジェロ城、そうです。第1幕で政治犯アンジェロッティが脱獄してきた監獄に使われていたお城です。カヴァラドッシは銃殺のためにカヴァラドッシは銃殺のためにサンタンジェロ城の屋上に連行されてきました。銃殺まで1時間の猶予が与えられました。カヴァラドッシは、恋人トスカへの手紙をたくそうと、看守に、自分のしていた指環を渡して、その替わりに手紙を書くことを許されるのでした。チェロだけの6重奏による、ソリッドで美しいばかりの響きが流れます。そして、カヴァラドッシのアリア『星も光りぬ』(トラック24)です。

 

本当なら、自分の別荘で、夜空を2人で観ていただろうことを、恋人トスカへの別れとともにせつせつと歌います。「星は輝き・・・私の愛の夢は、永久に消えてしまった・・・」

 

トスカは、スカルピアの部下に伴われて、サンタンジェロ城に到着します。この時点では、スカルピアが殺害されたことは、スカルピアの部下には知らされていません。階段を上がって屋上に通じる歩廊にトスカが到着すると、カヴァラドッシとトスカは再会を果たすのでした。(トラック25)トスカは、ここで、2人の逃れるための通行手形を、カヴァラドッシにみせるのです。スカルピアのサインが入った通行手形です。トスカは、カヴァラドッシに「スカルピアに欲望を約束させられ、抱擁を求められたので、ついに思いあまってスカルピアを刺殺した」ことを打ち明けるのでした。そして、「これから行われるカヴァラドッシの銃殺刑は、空砲だからうまく倒れるように」と話すのです。(トラック26)

 

いよいよ銃殺刑のために、銃殺の為の兵隊が隊列を組んでやってきました。サンタンジェロ城の屋上に、カヴァラドッシはひとり、銃殺されようとしています。トスカは物陰に隠れて「うまく倒れたふりをするのよ」(トラック28)と祈ります。

 

予定通り、銃殺が執行されました。兵隊が去ると、トスカは「うまく倒れたわね」と言って、倒れているカヴァラドッシのもとへ駆け寄るトスカ。すると、どうでしょう。血にまみれたカヴァラドッシ。倒れたのは「ふり」ではなくて、本当のことだったのです。カヴァラドッシは息絶えていました。銃殺刑は、空砲ではなく、実際の銃弾が使用され、カヴァラドッシは、事切れていたのです。泣き叫ぶトスカ。(トラック29)

 

スカルピアの部下たちは、ファルネーゼ宮殿で、スカルピアが殺されたという報を聞き、犯人は、「トスカだ!」と叫びます。トスカは、咄嗟に、サンタンジェロ城の城壁に駆け上がり、「スカルピアよ、神の御前で会おう」と叫んだかと思うと、トスカは、城壁から朝焼けの空に身を翻らせ、トスカは事切れたのでした。

 

(第3幕 トラック22から29 演奏時間27:35)

 

(次ページにつづく)

 

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