文:野村和寿
「ラ・ドンナ・エ・モビレー 女は気まぐれまるで羽根・・・」
この「女心の歌」は、ジュゼッペ・ヴェルディ(1803-1901)のオペラ『リゴレット』の第3幕で、主要登場人物の一人である、マントヴァ公爵によって歌われます。みなさんも一度はどこかでお聴きになったことのある口ずさみやすい歌です。私もいつの日か、ちょっとイタリア風にスーツを着こなして、北イタリア・マントヴァの街を闊歩したいと常々考えていました。その思いは今でもあきらめた訳ではないのですが・・・。マントヴァを舞台にしたオペラ『リゴレット』(1851年ヴェネチア・フェニーチェ座で初演)の幕を開けることにしましょう。しかも、リゴレットの娘ジルダ役には、お待ちかねのマリア・カラスの出演です。
ヴェルディ:歌劇『リゴレット』全曲
■主な配役
ジルダ/マリア・カラス(ソプラノ)
マントヴァ公爵/ジュゼッペ・ディ・ステファノ(テノール)
リゴレット/ティト・ゴッビ(バリトン)
■演奏
ミラノ・スカラ座管弦楽団及び合唱団
(合唱指揮:ノルベルト・モーラ)
指揮:トゥリオ・セラフィン
音源提供 ワーナークラシック・ジャパン
ハイレゾ提供 e-onkyo music
https://www.e-onkyo.com/music/album/wnr825646254187/
ファイル形式
MQA Studio 96kHz/24bit
2014年、英アビイ・ロードスタジオでオリジナル・アナログテープより96Hz / 24bitで作成されたデジタル・リマスター音源より最新MQAエンコード
¥2,515
◎実際の販売価格は変動することがあります。価格は税込価格(消費税10%)です。
『リゴレット』の主な登場人物はというと、タイトルにもなっているリゴレット(バリトン)とマントヴァ公爵(テノール)との二人の男声陣、そのなかを割って入るように、ジルダという女声が加わります。通常このオペラには、主人公であるリゴレット役と、マントヴァ公爵に、有名なアリアがあるので、男声二人が活躍するオペラとみなされているのですが、マリア・カラス(ソプラノ)がジルダ役を歌っている本作品に限っては、男声二人に対して、真っ向勝負を挑み、二人の男声を、くってしまっているように聴こえるのです。あたかも、マリア・カラスのジルダこそが、主人公であるかのような印象さえ、聴き手に与えると思います。
舞台は、北イタリアのマントヴァ。3ヶ月前に、リゴレットの親子が引っ越してきます。リゴレットは、このマントヴァの宮廷で、「道化」として仕えているのです。「道化」とは、朝方から夕刻まで、平々凡々とした日々を過ごしている高貴な身分の人たちを、どんな時でも、舌先で笑わせる、いわば「和み役」を仰せつかったのが「道化」です。
宮廷人たちは、「わしを笑わせてみよ 道化…」とどんなときにもいうのです。そのとき道化は笑わせなければいけないのです。商家のご主人が、遊郭に遊びに出向くときに、座を盛り上げるために、幇間(ほうかん)とよばれる職業が江戸時代にもありました。「道化」は、悲しくやるせない職業でもありました。宮廷を笑いの渦にするリゴレットが、相手かまわず皮肉る姿に、リゴレット自身もあざけりの対象だと内心は認識しており、自分の仕事を快くは思っていないのでした。オペラのなかで、道化師が登場するオペラはほかにもあります。レオンカヴァッロの『道化師』です。道化師の悲哀を扱った部分にスポットライトをあてた作品が多いのもうなずけます。
リゴレットには、ジルダという16歳になる娘がいました。ジルダの母親はとうに他界しており、父一人娘一人の父子家庭ですので、リゴレットは、娘ジルダを溺愛するあまり、外の風に、娘をさらして、なにか災いが娘に起きることを避けるために、娘ジルダには、外出を禁じており、ジルダは、乳母ジョヴァンナ(ジューゼ・ジェルビーノ メゾ・ソプラノ)に見張られて、家の中で生活を強いられていました。そして唯一、外出を許されたのが、日曜朝教会の礼拝に出向くことでした。(続きを読む)
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