文:野村和寿
Mozart & The Weber Sisters
アーチスト:サビーヌ・ドゥヴィエル(Sabine Devieilhe)
ジャンル:クラシック
音源:ワーナーミュージック・ジャパン ERATO
ハイレゾ音源提供:e-onkyo music
https://www.e-onkyo.com/music/album/wnr825646050666/
ファイル形式:MQA Studio 96kHz/24bit
3,458円(税込価格)
◎実際の販売価格は変動することがあります。
収録曲 全72:24
Ⅰ プロローグ:純情なる打ち明け話、または期待
1,バレエ音楽『レ・プティ・リアン』序曲 K.299b 03:20
Les petis riens,K.299b Overture
2,ああ、ママに言うわ K. 265 02:54
"Ah, vous dirais-je maman", K. 265
3,人里離れた森の中で K.308 03:20
"Dans un bois solitaire", K. 308
4.パントマイム劇「パンタロンとコロンビーネ」K.446 ~アダージョ 01:16
Musik for the Pantomime Pantalon and Columbine, K. 446 Adagio
Ⅱ アロイジア、我が親愛なる友
5.アルカンドロよ、私は告白しよう、どこより訪れるのか私は分からぬ K.294 09:03
“Alcandro,Io confesso...Non so d'onde viene", K. 294
6.ああ、できるならあなた様にお教えしたいものです K.418 06:43
"Vorrei spiegarvi, oh Dio", K. 418
7.テッサーリアの民よ!私は求めはいたしません、不滅の神々よ K.316 10:10
"Popoli di Tessaglia... Io non chiedo, eterni dei", K. 316
8.わが感謝を受けたまえ、やさしき保護者よ K.383 03:25
"Nehmt meinen Dank", K. 383
Ⅲ ヨゼーファ、または光の中に入って
9. 2つのバセット・ホルンとファゴットのためのアダージョ ヘ長調 K.410 01:37
Kanonisches Adagio, K. 410
10.やさしい春がもうほほ笑んで K.580 07:35
"Schon lacht der holde Frühling", K. 580
11.歌劇「魔笛」K.620 ~復讐の炎は地獄のように我が心に燃え <夜の女王のアリア〉02:41
Die Zauberflöte, Act 2, K. 620: "Der Hölle Rache" (Königin der Nacht)
12.「エジプトの王ターモス」K.345 第5番 間奏曲 アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサ 03:23
Thamos, König in Aegypten, K. 345: No. 5 Entr’acte
Ⅳ 私の愛しいコンスタンツェのために
13.歌劇「魔笛」K.620 ~神官の行進 02:56
Die Zauberflöte, Act 2, K. 620: March of the Priests
14.ソルフェッジョ K.393 No.2 ヘ長調 02:53
Solfeggio, K. 393: No. 2 in F Major
15.ミサ曲 ハ短調 K.427 肉体をとりたまいし者 11:00
Mass in C Minor, K. 427: "Et incarnatus est”
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今日はクラシック、それもきっと誰もがご存知のモーツァルトです。といっても、大仰に構えることはなく、ちょうどウィーンにある洋菓子店カフェ・モーツァルトのチョコレート菓子・クーゲルのように、口に入れると、甘さがあふれるような新鮮さに満ちている音楽です。コロラトゥラ・ソプラノという高音域の女声の歌い手サビーヌ・ドゥヴィエル(フランス)が、小さな18世紀当時を思わせる古楽器による40人の小さなオーケストラ・ラファエル・ピション指揮のアンサンブル・ピグマリオンを従えて、軽めにうたいます。
よくソプラノ歌手というと、でっぷりとお肉があまっている体型をして(失礼!)、おそろしく甲高い金切り声を張り上げるというイメージをお持ちかもしれません。ところが、今回取り上げる歌い手サビーヌ・ドゥヴィエルは、とびっきりの容姿端麗の美人で、スタイルもすっきりとスラッとしています。
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ジャケットの正面にこちらを向いて佇む美女がサビーヌ・ドゥヴィエルその人です。ずいぶんと若々しく美しさにあふれていますね。ジャケットの写真をよく見ると、後ろに3人の女性がシルエットになっているのがわかります。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)が21歳のとき、今のドイツ、南部マンハイムで、バス歌手であり、宮廷の楽団御用達の楽譜の写譜屋さんだったウェーバー家の3姉妹と知り合います。
今回のアルバムは、このウェーバー家の3姉妹にまつわるモーツァルトの隠れた名曲を集めたアルバムなのです。しかも、ドゥヴィエルの母国フランス(パリ)にちなんだモーツァルト曲をからめてもいます。なぜかといえば、3姉妹に出会ったマンハイムは、モーツァルトが2回目のパリ旅行の途中で立ち寄った土地なのです。1777年に予定外に4ヶ月半ほど、マンハイムに滞在してしまいます。モーツァルトは当地で初めての「恋」をしたのです。
ドゥヴィエルの声は、軽めでころころとしてさわやかそのもの。ちょうどすっきりとして香しいロワールを代表する白ワイン、サンセールにも似た、さわやかな口当たりならぬ耳当たりのよい聴き心地です。
その声は、無理に張り上げるのでもなく、どこまでも透明感が持続してくれて、このさわやかさは絶品なのです。技術的には歌手にとっては、超難関の最高音域のコロラトゥラ・ソプラノと呼ばれる音域で、きんきんとノイジーになるところがなくて、ころころとした声をなんなく出していて、しかもその表情は歓びにあふれて自分でも楽しそうにうたっているのです。まったく素晴らしい歌手です。
さあて、ここまでで、クラシックのアルバムというよりも、聴く側にとっては、敷居の高くないさわやかな試聴感の望めるアルバムということがすでにおわかりになったと思います。
オーストリア ザルツブルグ市内にあるモーツァルトの生家(写真:上)と、モーツァルトの直筆サイン(写真:下)まるで、音符を書くような軽やかな筆致なのが特徴。
1782年26歳のモーツァルト この絵を描いたのは。なんと元恋人アロイジアの結婚相手、画家で俳優のランゲだった。絵は未完だが、モーツァルトの実際の顔に最も似ているとされている。
さらに、音楽の背景についてご説明してまいります。
3姉妹の真ん中がアロイジア・ウェーバー(1760?-1839)といいます。当時18歳、アロイジアは実は、母以外で初めて肌を合わせた、モーツァルトにとっての初めての女性だったといわれています。そのアロイジアに、モーツァルトは徹底的に恋してしまいました。恋というのははかないもので、結局アロイジアは、ほかの俳優で画家だった男性ランゲと結婚してしまい、モーツァルトの初めての恋は失恋に終わります。失恋後もなお、アロイジアのために曲を書いていて、結局彼女のために結局モーツァルトは7曲ものコロラトゥラ・ソプラノの曲を残しています。
ウェーバー姉妹の一番上がヨゼーファ・ウェーバー、ヨゼーファは歌が相当上手だったと伝えられています。興行師シカネーダーのもとで、大事な歌手の地位を担っていました。なかでも、モーツァルトの晩年1791年になって作曲された歌劇『魔笛』では、もっとも大事な役のひとつ、「夜の女王」という役を演じて、超高音域をうたったコロラトゥラ・ソプラノとして歴史に名をとどめています。
そして、最後は、コンスタンツェ・ウェーバーです。彼女は、モーツァルトと恋愛をして、周囲の反対を押し切って、1782年8月4日にモーツァルトと結婚しています。モーツァルト26歳、コンスタンツェ19歳のときでした。それから彼が35歳で亡くなるまで、生涯にわたって9年間、妻となった女性でした。モーツァルトは彼女のために、ソルフェッジョ(譜面を読むための練習曲)K.393(トラック14)や、モーツァルトの作曲した未完成の大ミサ曲(K.427トラック15)のソプラノ・パートの歌い手に選ばれているほどなのです。
(コンスタンツェは後世、モーツァルトの死に際に、温泉に行っていて不在だったことがきっかけで、浪費家で遊び好き。ギリシャの哲学者ソクラテスの妻クサンチッペ、ロシアの文豪トルストイの妻ソフィアと並んで、世界3大悪妻のひとりというあまりよくない称号をつけられてしまいました。)
モーツァルトにとって大事な女性たち、しかも姉妹の。上から音楽上大事なオペラ『魔笛』の「夜の女王」役を初演した女性 ヨゼーファ(1758-1810)、に、 初めての女性 アロイジア(1760?-1839) に、 伴侶となった女性コンスタンツェ(1763-1842)のウェーバー家3姉妹にちなんで、作曲された音楽ばかりを集めたのが本アルバムなのです。
全15曲について少し詳しく解説してまいりましょう。(続きを読む)