文:野村和寿
国内オリジナル・アナログテープを基にした2018年DSDマスターを352.8kHz/24bit 変換しMQA-CD化したものです。
歌(アーチスト) ナナ・ムスクーリ
ジャンル フランス・シャンソン
ユニバーサルミュージック
2,800円+税(生産限定盤)
◎実際の販売価格は変動することがあります。
収録曲
01,アマポーラ
3:43 ’84年発表
02,日曜はダメよ
3:11 ’63年発表
03, アルハンブラの想い出
4:08 ’85年発表
04,リベスタード(黄金のつばさ)
4:04 ’86年発表
05,花売り娘
3:50 ’87年発表
06,私のアテネ
4:04 ’83年発表
07,バラ色の日々
3:38 ’72年発表
08,ロマンス(禁じられた遊び)
3:10 ’69年発表
09,恋人に桜んぼをあげた
2:36 ’67年発表
10,愛の歓び
3:26 ’71年発表
11,緑の輝き
2:50 ’70年発表
12,プレイス・イン・マイ・ハート
3:22 ’72年発表
13, 海岸をゆけば
3:16 ’69年発表
14,桜んぼの実る頃
3:07 ’69年発表
15,ゴロンドリーナ
3:08 ’86年発表
16, 祈り
3:25 ’80年発表
17,ムーンダンス
3:38 ’87年発表
18,ハートのクイーン
2:47 ’85年発表
19,アイ・ハブ・ア・ドリーム
4:48 ’73年発表
20, アヴェ・マリア(シューベルト)
3:56 ’72年発表
好評連載中!
「眼鏡美人の歌姫」といえば、ナナ・ムスクーリが挙げられると思います。 ナナ・ムスクーリの歌声は、まさに「天使の歌声」と活躍した当時いわれたボーカルです。ちょっと細身で、よく女声特有の、高音が、きんきんと響かせるすることがなくて、美しく清らかで、どこまでいっても、しみじみと、実に清楚に人生をうたうのです。
ナナは、’60年にデビューし、 ’60年代から’80年代にかけて、主に、パリを中心に活躍してきたギリシャ出身の歌姫です。ナナは、’51年にアテネのコンセルバトワール・ヘレニーク(ヘレニーク音楽院)で、オペラの勉強を始めました。この音楽学校はかつて、オペラ界の偉大な女神マリア・カラスも若い頃に学んだ学校で、ナナも、カラスに憧れてオペラ歌手を目指したことは想像に難く有りません。
しかし、在学中に、アテネの「ル・ザキ」という酒場でポピュラー歌手の仕事をしていたのが、学校に漏れてしまい、退校になっています。ナナ22歳の’56年にラジオ・アテネで放送デビュー、’59年に最初のアルバムをリリースしています。 声が単にきれいというだけではなく、歌声にはメッセージが込められています。幼少期、ナチス・ドイツに占領されたアテネの街で、数々の戦争の傷跡をつぶさに見てすごしていただけに、しみじみとした人生を背負った歌をうたい続けているのです。
本アルバムは、ナナが’60年にデビューしてからまだ3年目、パリのオランピア劇場に初めて出演した当時から、’87年までのナナの足跡を追うようにフィーチャリングがされています。
1曲めの「アマポーラ」は、ひなげしの花を美しい人にみたてたラブ・ソングです。実にしみじみとした心が静かになるようなラテン・ナンバー。
2曲めの「日曜はダメよ」は、’60年制作(’61年日本公開)の同名のギリシャ映画の主題歌で、底抜けに明るくちょっとセンチメンタルな映画の主人公イリアとアメリカ人旅行者とのラブ・ロマンスをうたっています。
3曲めの「アルハンブラの思い出」は、ギターの名曲に美しくヴォカリーズ(ああ・ああ・・・と声の母音だけ)でうたうのです。実にいろいろなジャンルの曲を美しくうたっています。
なかでも、14曲めの「桜んぼの実る頃」は、聴いたことがあるかもしれません。 日本では、1992年にスタジオ・ジブリのアニメ映画『紅の豚』のなかで登場しました。飛行艇が好きで豚になってしまったパイロットの哀愁ただようシーンで、劇中歌として、ジーナ役の声を担当した自らも歌手である加藤登紀子が甘く切ない歌をうたうシーンで登場します。みなさんの耳にもきっと残っていることでしょう。 原曲は19世紀後半の革命パリ・コンミューンの頃に指導者の一人だったジャン・バチスト・クレマンが作曲した曲を発掘してきた古いシャンソンで、ナナをはじめ、グレコやモンタンも取り上げている名曲なのです。ここでナナのうたう本曲はなかでも秀逸で、遠い昔を思い起こすかのように静かに、感情をむしろ控えめにうたうからこそ、聴き手にはぐっときてしまうのです。
4曲めの「リベルタード」と、20曲めの「アヴェ・マリア」はクラシックの作品です。「リベルタード」は、イタリア・オペラの神様といわれるジュゼッペ・ヴェルディ(1813-1901年)が歌劇『ナブッコ』のなかで、国を追われたユダヤ人たちが、「飛べ黄金のつばさへ」とうたう合唱曲がもととなっている第2のイタリア国家といわれる曲、「アヴェ・マリア」は、歌曲の王フランツ・シューベルト(1813-1828年)が作曲した「エレンの歌」という歌曲集からとられているおなじみの曲です。このアルバムの最後を飾るにふさわしいしみじみとさせてくれるまさに名曲です。
文:野村和寿
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執筆者紹介
’78年FMレコパル編集部に参画して以来、約20年にわたりFMレコパル、サウンドレコパルと、オーディオと音楽の雑誌編集者を長く務める。誌上では、オーディオのページを担当するかたわら、新譜ディスク紹介のページを長く担当した。海外のオーディオ・メーカーの取材の際、宿に戻り遠く離れた土地で日本のボーカルを聴いてジーンときたという体験をし、ボーカルがいかにオーディオに人の心にダイレクトに響くかに開眼した経験をもつ。ポップスやロック、ジャズ、クラシックといった多方面のアーチストと交流を深めるうちに、音楽はジャンルではなく、その楽しさにおいては、なんら変わらないことに確信を持つ。ハイレゾの今日に至るも、ますます、お薦めボーカルをジャンルを取り払って探していきたいと思っている。
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