文:野村和寿
国内オリジナル・マスターテープを基にした2018年のDSDマスターを352.8kHz/24bit 変換しMQA-CD化したものです。
歌(アーチスト) コニー・フランシス
ジャンル:アメリカン・ポップス(オールディーズ)
ユニバーサルミュージック
2,800円+税(生産限定盤)
◎実際の販売価格は変動することがあります。
■収録曲
01,ヴァケイション
2:25 ’60年発表
02,カラーに口紅
2:21 ’59年発表
03,ステューピッド・キューピット
2:16 ’58年発表
04,ボーイ・ハント
2:41 ’60年発表
05,可愛いベイビー
2:23 ’62年発表
06,フーズ・ソーリー・ナウ
2:20 ’58年発表
07,マイ・ハピネス
2:33 ’58年発表
08,大人になりたい
2:27 ’61年発表
09,フランキー
2:34 ’58年発表
10,涙を捨てて
2:00 ’60年発表
11,恋にヨワイ
2:44 ’60年発表
12,ママ
4:00 ’60年発表
13,私の心
2:34 ’60年発表
14,想い出の冬休み
2:29 ’62年発表
15,ブロークン・ハート
2:41 ’62年発表
16,泣かせないでね
3:07 ’62年発表
17,恋のワルツ
2:47 ’61年発表
18,夢のデート
2:47 ’62年発表
19,渚のデート
2:43 ’63年発表
20,明日を忘れて
2:46 ’65年発表
21,可愛いベイビー(日本語ヴァージョン)
2:22 ’62年発表
22,ヴァケイション(日本語ヴァージョン)
2:20 ’62年発表
好評連載中!
コニー・フランシスは、アメリカのキュートな女性ボーカルです。キュートとは「(若い女性や子どもが)きびきびしていてかわいいさま」をいいます。ちょっと小悪魔的でやんちゃなギャルといった風情。主に活躍したのは’50年代から’60年代。それが、今回、MQA-CDとなって、見違えるほどクリアーなボーカル・アルバムにリフレッシュされました。
1曲めからかけてみましょう。「ヴァケイション」です。踊りだしたくなる軽快で明るいナンバーが流れるでしょう。スピーカーの中央から聴こえてくるコニーのボーカルは、ボーカルを囲むように、左からテナー・サックスがばりばりときます。ギターがリズムを刻み、右からは、ベースとドラムスがあおるようにまくしたてます。
今の音楽とくらべると、ほとんど、加工を加えていないダイレクトな生きの良さがかえって魅力を募ります。
22曲めに同じ曲の日本語版が追加されています。日本でのヒットを得て、コニーが日本語バージョンをうたってくれているのです。歌詞はこれでわかります。「きらきらと輝く太陽背に受けて・・・」と底抜けの明るさはここでも健在です。
ちょうど、映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』(’85年アメリカ・ロバート・ゼメキス監督)のなかで、ハイスクールのダンス・パーティー(「魅惑の深海パーティー」)のシーンが印象的だった方も多いのではないかと思います。「男の子はタキシードできめ、女の子は幅広めのワンピースでドレスアップして生のダンスバンドを前にして、ダンスを踊るシーン・・・」
日本ではこと’70年代までは、アメリカのような豪華ダンス・パーティーには、恵まれてはいませんでしたので、あのシーンには、追慕のような憧れのようなそんな気持ちになりました。ジュラルミン製のシュアーのダイナミック型ボーカル・マイク(通称骸骨)が銀色に輝いていました。
2曲めの「カラーに口紅」3曲めの「ステューピッドはキューピッド」はさらにアップ・テンポで、軽快なドラムスがリズムを刻み、ギターがいいところをみせます。男声のバック・コーラスも合いの手をいれ、のりのりです。こののりの良さを聴いていて、気がつくのはとくに、曲のタイミングが1曲めが2:25、2曲めが2:21,3曲めが2:16と、ほとんど3分以内におさまっていることです。これには理由があります。
’70年代までの日本ではさしずめ、レコード店で、まんなかに大きな穴が開いていたので「ドーナツ盤」といわれた直径17cmのアナログ・レコードを買ってきて、ステレオ(オーディオ装置のことをステレオと呼んでいました)をもっている友達の家にみんなで集まって、友達同士で「ダンス・パーティー」を気取っていました。EP盤はもともとバーなどに設置されていたジュークボックス用のレコードとして開発され、アナログLPが1分間に33 1/3回転だったのに対してEP盤は1分間に45回転でした。家庭のプレーヤーでは真ん中にEP盤用のアダプターをセンター・スピンドルに入れEP盤をかけたのです。A面とB面とがありましたが、めいっぱい収録されてさえもA面B面合わせて5分から8分以内の収録時間なのでした。
4曲めの「ボーイ・ハント」はゴージャスなリバーブ・エコーをめいっぱい効かせたサウンドが左右いっぱいに広がります。バックをつとめるのは、女声・男声コーラス、リード(する)・ギター、リズム・ギター、ストリングス、ベース、ドラムスとちょっと豪華版です。いわゆるダンス・パーティーのチーク・タイムで聴く、ゆっくりめのバラードです。ここで聴けるコニーは、せいいっぱい大人へ背伸びした少女の表情をみせます。
この流れは、12曲めの「ママ」でもそう。この曲はイタリア系のコニーならでは、’30年代にイタリアで流行したカンツォーネで、イタリア語でノスタルジーたっぷりにうたいます。バイオリンがいい味でいななきます。フル・オーケストラにはグランド・ハープまで登場してさらにゴージャスさを演出します。ここで聴けるコニーは、かわいさに加えて、一途でコケティッシュ(色っぽいさま。男の気をひこうとするさま)なうたいっぷりです。最後の控えめなうたい方などぐっとくるでしょう。
14曲めの「想い出の冬休み」に代表される、これでジルバやツイストを踊りだすような軽めの気持ち良いナンバーをはじめ、こうしたコニー・フランシスの音楽ジャンルを総称して、今でも「オールディーズ」と呼んでいます。アメリカが豊かで幸せだった’50-’60年代のなんともゆったりとしたいかした(懐かしい!?)サウンド、そして底抜けの明るい当時の言葉でいうとなんとも「いかしてるぜ」となる、速いテンポの踊りの曲をいいます。ちなみに文末で、各局のタイミングとともに、TEMPO「ゆっくり」、「普通」、「速め」を付記しておきました。ご参考になさってください。
オールディーズを今でも聴ける酒場もあります。東京・六本木のオールディーズ・ライブハウス「Kento’sケントス」では、週末になると、夜な夜な今もオールディーズが生バンドで演奏され、若い男女や、昔若かった男女が、「ごきげん」なメロディーにのって、踊りを楽しんでいます。
オールディーズが最初に流行したのは、’80年代です。その当時の作り込みの過ぎた音楽に飽きた人々は、昔のゆっくりとした郷愁に憧れたのだと思います。
私も’87年に横浜・本牧にあった「リンディ」老舗ディスコ「リンディ」(’70年代に開店’87年閉店)にオールディーズの取材に行ったことを思い出します。真ん中にあるDJブースは古い車シトロエンそのまんま、店内に流れるP.A.のアメリカン・サウンドには、なんと、JBLのスピーカー ハーツフィールドが使われていました。日本では当時でさえも名器と呼ばれていたスピーカーが、なんの気兼ねもなく大音量で鳴っていたのが印象的でした。いかにも、コニー・フランシスのボーカルが聴こえてきそうな、アメリカナイズされたディスコでした。
そうです。オールディーズは、’50年代から’60年代のアメリカン・サウンドですが、むしろ、そのときそのときのオールディーズ・ファンがいるのです。’70年代も、’80年代も、そして、今日に至るまで、オールディーズは永遠です。コニー・フランシスの、屈託のないボーカルは底抜けの明るさで、私達を魅了し続けることでしょう。
本アルバムの録音は、ちょうど、ステレオ録音の初期にあたっていて、レコード会社は、ステレオをどうやってうまく利用していくかに悩んでいました。そこで、ボーカルを左右チャンネルの中心において、あるときは右側に、あるときは左側に伴奏楽器を配置して、盛り上げています。今の録音のいわば手始めとなった録音の進歩はここから始まったといえるでしょう。そこで、文末に、私が、本アルバムを聴いた、楽器配置をイメージして記しておきましょう。みなさんも、コニー・フランシスのボーカルをいかにいかすかについて、どんな楽器が使われているか、また左右どちらかから聴こえてくるかに耳をそばだててみるのも面白いかも知れません。
ちなみに、現在のボーカル・アルバムでも、左右の真ん中にボーカルを定位させるのは、基本中の基本だと言われて踏襲されています。細かく言えば、左右の楽器は、単に左から右からだけでなく、別チャンネルに楽器を回り込ませることによって、より立体的なステレオが実現されているのは、みなさんももちろんご存じのことと思います。また楽器配列は私の耳で聴いた印象なので、実際と異なるかも知れないことはご了承ください。
文:野村和寿
表1.コニー・フランシス ベスト・セレクション 聴感による楽器の配列(筆者)
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執筆者紹介
’78年FMレコパル編集部に参画して以来、約20年にわたりFMレコパル、サウンドレコパルと、オーディオと音楽の雑誌編集者を長く務める。誌上では、オーディオのページを担当するかたわら、新譜ディスク紹介のページを長く担当した。海外のオーディオ・メーカーの取材の際、宿に戻り遠く離れた土地で日本のボーカルを聴いてジーンときたという体験をし、ボーカルがいかにオーディオに人の心にダイレクトに響くかに開眼した経験をもつ。
ポップスやロック、ジャズ、クラシックといった多方面のアーチストと交流を深めるうちに、音楽はジャンルではなく、その楽しさにおいては、なんら変わらないことに確信を持つ。ハイレゾの今日に至るも、ますます、お薦めボーカルをジャンルを取り払って探していきたいと思っている。
好評連載中の『MQAで聴くクラシックの名盤』はすでに連載が17回を数えている。
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