MQAで聴く女性ボーカル

 

第5回 リッキー・リー・ジョーンズ /浪漫  RICKIE LEE JONES

 

勝ち気な小娘が

挑発してくるような

素敵なのりのボーカル

文:野村和寿


オリジナル・アナログテープを基にした2019年192kHz/24bitマスターを176kHz/24bit変換しMQA-CD化したものです。

 

 

 

 

歌(アーチスト) リッキー・リー・ジョーンズ

ワーナーミュージック・ジャパン

ジャンル:ロック(シンガーソングライター) 

2,800円+税  (生産限定盤)

◎実際の販売価格は変動することがあります。



 

■収録曲(発表’79年)

 

01.恋するチャック 

Chuck E.s In Love 3:31

02.1963年土曜日の午後 

On Saturday Afternoons in 1963 2:33

03.ナイト・トレイン

Night Train 3:18

04.ヤング・ブラッド

Young Blood 4:07

05.イージー・マネー

Easy Money 3:20

06.ラスト・チャンス・テキサコ

The Last Chance Texaco 4:08

07.ダニーの店で

"Dannys All-Star Joint 4:05

08.クールズヴィル

Coolsville 3:52

09.ホワイト・ボーイズ・クール

Weasel and the White Boys Cool 6:04

10.カンパニー

Company 4:54

11.アフター・アワーズ

After Hours 2:16

 

 

ベレー帽を小粋にかぶり、伏し目がちに極端に短くなったシガーを口にくわえた女性が、リッキーその人です(当時 24 歳)。このジャケットを撮影したのは、高名な写真家ノーマン・シーフ(アップルの創業者スティーヴ・ジョブズのフォトで有名です)。

 

私がリッキーのアルバムと最初に出会ったのは、いったいいつ頃だったのか、それは79 年のことでした。リリースされたばかりのアナログ盤を、友人の下宿の小型プレーヤーで聴いたのが、初めてのリッキー体験でした。

 

大げさかもしれないのですが、アナログ盤から聴くことができた、リッキーのあふれ出るようなサウンドは、「俺たちと同じ年代の音楽」と大いに共感を覚えたものです。 録音されたのは、アメリカ・カリフォルニア州のバーバンク、聴き手の我々は、東京と場所は違えど、自分と同世代の等身大ともいえる歌いっぷりに、「リッキーと共に生きていける歓び」のようなそんな自信のような思いをもったのでした。もっといえば、勝ち気で、小生意気で、突っ張った、でもどこか憎めない小娘の声への共感です。

 

シングル盤にカットされてヒット・チャートを上昇した、1曲めの「恋するチャック」を聴いてみましょう。「自分の男友だちが、最近になって自分の前に出ると、どこか、もじもじとして煮え切らないのは、これはきっと自分のことを好きだからに違いない」と、男の子から、好きになられてしまった自分を、自分側からすくいとり、少々自信過剰気味のように思わせぶりにうたいます。

 

70年代後半の若者にありがちだったのは、振られても振られても女の子に恋する心、「どうしてもわかってくれないんだろう」という気持ち、これを反対に女の子側から聞かされれば、「きっと、こんな感じなんだろうな」と思えてきます。

 

4曲め「ヤング・ブラッド」の歌詞のなかで、思いつくままに、ワードをピックアップしてみましょう。

 

「クーペ、シボレー、イカしてる、映画のチケットが2枚、抱きしめられる、 真夜中の散歩…」。こうしたワードを、次々に発する女の子が、我らのかっこいいアイドル、リッキーだったのです。

 

7曲めの「ダニーの店で」は、のりのりのブギウギ調です。「ブギウギとはロックの元にもなっているブルース・ピアノがベースに、ビート(拍)をコンスタントに刻みながら奏でる速いテンポの曲のこと」をいうそうです。

 

ここでリッキーが発する言葉もかっこういいです。「ピカピカのクーペ、ピンボール・マシン、ハーシーのミルクセーキ、キツいガードル、坊やたち…」。 こうした当時の若者たちの願望のような言葉を発しながら、常に聴き手を挑発してくる小悪魔のようなリッキー。

 

でも、どこか憎めないリッキーは、少女から若い女になる頃の心情を刺激的にちょっとかすれ声で語りかけるようにうたっているようでもあります。

 

最後の方の10曲め「カンパニー」は、つきあっている彼氏との別れのバラードです。「自分の人生を生きるために、わたしは去っていこう。夢のなかで別の人生であいましょう」とうたうのです。思いを込めてちょっと鼻にかかったようなかすれ声で。

 

速いテンポのブギウギからゆっくりめのバラードまで、アルバムは全11曲。このうち、9、10曲めの 2 曲をのぞき(この2曲は、アルフレッド・ジョンソンとの共作)、リッキー・リー・ジョーンズのオリジナル作品です。彼女はシンガーソングライターなのです。

 

シンガーソングライターとは、文字通り、自分の思いつくままの心情を、詩と歌で、吐露するようにうたってみせるアーチストを指します。彼女の身の回りで起きたことは、このアルバムのなかで、見事なまでに、彼女の心情として吐露されているのです。

 

二人のプロデューサーの存在は大きいです。レニー・ワロンカーと、ラス・タイトルマンの共同プロデューサーは、リッキーとよほど馬が合ったのか、ジャケット裏の写真に、リッキーも含めて3人の子どもの頃の写真が、合成されて、3人でいたずら小僧のように収まっているというジョークのような写真が掲載されています。素のリッキーの力強さや生きの良さをそのままに、絶妙なバック・ミューシャンをクレジットされているだけでも、26人も起用しています。

 

なかには、ソロとしても有名だったランディ・ニューマン(シンガーソングライターとして有名、シンセサイザーで参加)や、ジャズ・フュージョン界では泣く子も黙るトム・スコットは、グラミー賞を3度も受賞しています(サックス)。同じく渋いサックス吹きで、ザ・ローリング・ストーンズの全米公演にも参加したアーニー・ワッツ(サックス)、ジャズ、ロック、ブルースと大活躍し渡辺貞夫のグループにも参加したスティーブ・ガッド(ドラムス)、フュージョン・グループTOTO のリーダーで名を馳せたジェフ・ポーカロ(ドラムス)といったウェスト・コーストやイースト・コースとを代表するミュージシャンたちが、実はバックをかため、リッキーを盛り立ててくれています。

 

それが MQA-CD で聴くと実に気持ちがよいのです。楽器のベースの出てくるところやテナー・サックスの一瞬のうちに主人公となるような、はきはきとした分離の良さや、ドラムスの切れのよさも十二分に伝わってきて今改めて聴いても最高のアルバムです。

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文:野村和寿

 

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豪華な参加メンバー

 

リッキー・リー・ジョーンズ(Rickie Lee Jones, vo, key, perc, g, horn)

ドクター・ジョン(Dr. John, key)

マイケル・マクドナルド(Michael McDonald, vo)

ランディ・ニューマン(Randy Newman,synth)

ヴィクター・フェルドマン(Victor Feldman,perc,ds,key)

トム・スコット(Tom Scott,horn)

ラルフ・グリアソン(Ralph Grierson,key)

マイケル・ボディッカー(Michael Boddicker,synthe)

レッド・カレンダー(Red Callender,b)

ニック・デカロ(Nick DeCaro,accord, orchestral arrang)

バジー・フェイトン(Buzz Feiten,g)

チャック・フィンドレー(Chuck Findley,horn)

スティーヴ・ガッド(Steve Gadd,ds)

ランディ・カーバー(Randy Kerber,key)

ニール・ラーセン(Neil Larsen,key)

アーノ・ルーカス( Arno Lucas, vo)

ジョニー・マンデル(Johnny Mandel, orchestral arrang)

アンディ・ニューマーク(Andy Newmark,ds)

ジェフ・ポーカロ(Jeff Porcaro,ds)

レスリー・スミス(Leslie Smith, vo)

マーク・スティーヴンス(Mark Stevens,ds,perc)

フレッド・タケット(Fred Tackett,g,mandolin)

ジョー・トゥラーノ(Joe Turano, vo)

アーニー・ワッツ(Ernie Watts,horn)

ウィリー・ウィークス(Willie Weeks,b)

マシュー・ウィーナー(Matthew Weiner,vo)

 

順不同       

 


執筆者紹介

78年FMレコパル編集部に参画して以来、約20年にわたりFMレコパル、サウンドレコパルと、オーディオと音楽の雑誌編集者を長く務める。誌上では、オーディオのページを担当するかたわら、新譜ディスク紹介のページを長く担当した。海外のオーディオ・メーカーの取材の際、宿に戻り遠く離れた土地で日本のボーカルを聴いてジーンときたという体験をし、ボーカルがいかにオーディオに人の心にダイレクトに響くかに開眼した経験をもつ。 

 

ポップスやロック、ジャズ、クラシックといった多方面のアーチストと交流を深めるうちに、音楽はジャンルではなく、その楽しさにおいては、なんら変わらないことに確信を持つ。ハイレゾの今日に至るも、ますます、お薦めボーカルをジャンルを取り払って探していきたいと思っている。 

好評連載中の『MQAで聴くクラシックの名盤』はすでに連載が17回を数えている。

 

 


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