文:野村和寿
アーチスト:テレサ・テン
ジャンル:邦楽(演歌)
音源:ユニバーサルミュージック
ハイレゾ音源提供:e-onkyo music
https://www.e-onkyo.com/music/album/uml00602567521495/
ファイル形式 :MQA 88.2kHz/24bit 録音:’74年から’87年
3,667円 (税込価格)
◎実際の価格は変動する場合があります。
※テレサ・テン・ベスト・ヒットはSACDハイブリッド版も発売されています。
ユニバーサルミュージック 3,630円(税込価格)
収録曲
1,今夜かしら明日かしら
3:01 ’74年発表
作詞:⼭上路夫、作曲:筒美京平
2,空港
3:47 ’74年発表
作詞:⼭上路夫、作曲:猪俣公章
3,はぐれた小鳩
3:48 ’74年発表
作詞:⼭上路夫、作曲:猪俣公章
4,雪化粧
3:42 ’74年発表
作詞:⼭上路夫、作曲:猪俣公章
5,女の生きがい
3:38 ’75年発表
作詞:山上路夫 作曲:平尾昌晃
6,夜の乗客
3:50 ’75年発表
作詞:山上路夫、作曲:井上忠夫
7,アカシアの夢
4:22 ’77年発表
作詞:⼭上路夫、作曲:井上忠夫
8,夜のフェリーボート
3:17 ’76年発表
作詞:⼭上路夫 作曲:井上忠夫
9,ふるさとはどこですか
3:37 ’77年発表
作詞:中山大三郎 作曲:うすいよしのり
10,あなたと生きる
3:38 ’77年発表
作詞:千家和也、作曲:猪俣公章
11,東京夜景
4:07 ’78年発表
作詞:阿久悠 作曲:井上忠夫
12,ニイ(あなた)
3:29 ’80年発表
日本語作詞 ⼭上路夫 曲:台湾歌謡
(採譜:信楽順三)
13,ジェルソミーナの歩いた道
4:12 ’81年発表
作詞:門⾕憲二 作曲:丹⽻応樹
14,ふたたびの
4:28 ’84年発表
作詞:来生えつ子 作曲:TAI
15,つぐない
3:52 ’84年発表
作詞:荒⽊とよひさ 作曲:三木たかし
16,愛⼈
3:47 ’85年発表
作詞:荒⽊とよひさ 作曲:三⽊たかし
17,時の流れに身をまかせ
4:11 ’86年発表
作詞:荒⽊とよひさ 作曲:三木たかし
18,春を待つ花
4:33 ’77年発表
作詞:中⼭⼤三郎 作曲:中⼭⼤三郎
19,逢う時はいつも他人
3:03 ’77年発表
作詞:東海林良 作曲:徳久広司
20,別れの予感
4:29 ’87年発表
作詞:荒木とよひさ 作曲:三木たかし
編曲:
高田弘 1, 11
森岡賢一郎 2,3,4,5,6,7,8,
竜崎孝路 9,10,18
小野崎孝輔 12, 羽田健太郎 13,
杉村俊博 14, 川口真 15,16,17,
小六禮次郎 19, 林有三 20※
※ストリング・アレンジ 服部克久
今回はテレサ・テンをご紹介しましょう。
まさにそれまでの演歌界に新風を吹き込んだ、「アジアの歌姫」の日本への降臨です。それまでの演歌は、こぶしを多めに効かせた節の歌い回しや、声をふるわせるビブラートをゆっくりと多めにかけて、あふれ出るような熱情を過度なまでに突出させてうたうというのが演歌の定⽯といえました。ところが、香港、台湾、シンガポールなどの中国語圏で「アジアの歌姫」としてすでに活躍していたテレサ・テンが、日本にまさに舞い降りたのでした。’74年のことです。
テレサ・テンのボーカルは、あくまでも、清らかで、澄んだ歌声なのです。それでいて、一人静かに、耳を傾ける男⼼に⽕をつけたのはなぜでしょうか?
今回、なんどもテレサ・テンの歌声を久しぶりにたっぷりと長い時間聴いてみて、わかったのは、音程がぶれず、常にキープされていること。つまり、ずっと聴いていたいという魅⼒に溢れているということでした。これはすごいことで、音の揺れというのがまったくないのです。歌声に音の揺れがあると、私達聴き手の、聴く耳の側ほうが、これを補正するかのように、耳で探りをいれてしまい、結果として1曲めはよいのですが、長い間聴くには、聴き疲れが生じてきます。
ところが、テレサ・テンの場合は、歌詞自体に、聴き手が没⼊できて、何度もかみしめたくなる。テレサ・テンのことを今回、いろいろと調べていくと、彼女は自分の持ち歌をうたうときは、ずいぶんとよく勉強していたということがわかってきました。自分がうたう前に、作詞家の先生から、歌詞の意味を細かく聞いたり、そのとき、歌の主人公がどんなことを考えていたのかをよく考えてから、録音に臨んでいたそうです。1曲1曲の日本歌詞は説得⼒をもち、私達を包み込んでくれるのです。
1曲めの「今夜かしら明日かしら」(’74年発表 作詞:山上路夫、作曲:筒美京平、編曲:高田弘)と対になっているような5曲め「女の生きがい」(’75年発表 作詞:山上路夫 作曲:平尾昌晃 編曲:森岡賢一郎)は、いつ会えるかもわからないまま、ひたすら、男性の帰りを待つ、せつなき女心。お酒も料理も用意したのに・・・と、せつなさを感情をむしろ控えめにしてうたうテレサ・テンです。台湾出身で日本で活躍したテレサ・テンには、日本人女性のもともともっていた、柔らかいしなやかさが宿っているかのようです。
女性ボーカルのなかでも、日本語で聴く歌はダイレクトに、歌詞の意味とともに、耳に聴こえてくるために、聴きながらあれこれ想像を逞しくしてしまいそうです。15曲めの「つぐない」(’84発表 作詞:荒木とよひさ 作曲:三木たかし 編曲:川口真)は、酒場の有線放送でよくリクエストがあり、またカラオケでもいまだに人気が高い曲です。2019年カラオケのJOY SOUNDが集計した「年間演歌・歌謡曲ランキング」を見てみますと、第4位に「つぐない」にランクされ、今でも根強いカラオケの人気が高いことがわかります。
「つぐない」に「愛をつぐなう」という歌詞が出てきます。どういう意味なのか、考えてみましょう。「あやまちの愛」、そして結末を予感させる歌詞が続きます。過去にあやまちを犯してしまった女が、あやまちをつぐなうために、自分から身を引くと読むことができます。そして、「あすは他人同士になる、わたしより可愛い人を探すことよ」と結びます。歌詞の内容はとてもせつないのです。もうあしたにはお別れする、そんなことをうたうテレサ・テンは、むしろ感情を控えめに、清涼感さえ漂う声でうたうので、聴き手はむしろ、はっとさせられ、感情が揺れるのです。
17曲めの「時の流れに身をまかせ」(’86年発表 作詞:荒木とよひさ 作曲:三木たかし 編曲:川口真)では、そのはっとさせるような、柔らかい母性に男性は弱いです。『今はあなたしか愛せない』と女性にいわれてみたいなあと思いながら聴き入ってしまいます。
アジアの歌姫テレサ・テンが、この世を去ってはや25年が経とうとしています。いまだに、彼⼥の人気は衰えていないばかりか、彼⼥のうたうナンバーが、もう日本の愛称歌として受け容れられているのです。男が孤独になりたいとき、静かに夜を過ごしたいとき、誰ともしゃべりたくないとき、ひとり心静かに一日を終えたい夜などに、彼女の歌声に思いを馳せ、大袈裟にいえば、自分自身に男の哀愁みたいなものを感じ取れる、そんな音楽です。アジアの歌姫から日本の歌姫へ、そして日本のソウル・ミュージックとして、心から寛げる、大切にそっと時々取り出して聴きたい女性ボーカルです。
文:野村和寿
好評連載中!
おすすめ記事
テレサ・テン/オリジナル・ベスト・ヒット ハイレゾCD(MQA-CD)
国内オリジナル・アナログテープを基にした2018年DSDマスターを352.8kHz/24bit 変換しMQA-CD化したものです。
ユニバーサルミュージック 2,800円+税 (生産限定盤)
◎実際の販売価格は変動することがあります。
収録曲
*1.愛⼈
’85年発表
作詞:荒木とよひさ 作曲:三⽊たかし
2.乱されて
’85年発表
作詞:荒⽊とよひさ 作曲:三⽊たかし
*3.アカシアの夢
’77年発表
作詞:山上路夫 作曲:井上忠夫
*4.夜のフェリーボート
’76年発表
作詞:山上路夫 作曲:井上忠夫
5.笑って乾杯
’84年発表
作詞:山口あかり 作・編曲:川口真
*6.空港
’74年発表
作詞:山上路夫 作曲:猪俣公章
*7.つぐない
’90年発表
作詞:荒⽊とよひさ 作曲:三⽊たかし
*8.⼥の生きがい
’75年発表
作詞:山上路夫 作曲:平尾昌晃
*9.ふるさとはどこですか
’77年発表
作詞:中山大三郎 作曲:うすいよしのり
10.雨に濡れて
’85年発表
作詞:荒⽊とよひさ 作曲:三⽊たかし
*11.雪化粧
’74年発表
作詞:山上路夫 作曲:猪俣公章
*12.ジェルソミーナの歩いた道
’81年発表
作詞:門谷憲二 作曲:丹羽応樹
編曲 川口真 1,5,6,7,10,11,
杉村俊博 3,4,8,9
京建輔 12, 梅垣達志 2,
*印は本稿で紹介した、e-onkyo musicダウンロード・バージョンにも収録されている曲です。
■Stereo Sound社の「テレサ・テン」関連ディスク
ステレオサウンド社より、SACDシングルレイヤー+ CDとアナログ・レコードのアルバムが2020年2月現在、6タイトルがリリースされオーディオ・ファンの注目を集めています。価格はSACDシングルレーヤー+CDが、各4,950円(税込み) アナログ・レコードが、各8,800円(税込み)です。
https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/3133
Stereo Sound ORIGINAL SELECTION Vol.1
『テレサ・テン』SACDシングルレイヤー + CD SSMS-024 「空港」「アカシアの夢」ほか⽇本語歌唱、中国語歌唱あわせて全20曲を収録。
Stereo Sound ORIGINAL SELECTION Vol.2
『テレサ・テン<<中国語歌唱>>』SACDシングルレイヤー + CD SSMS-025〜026 「愛人」「津軽海峡冬景色」ほか中国語歌唱全12曲を収録。
テレサ・テン≪全曲中国語歌唱≫第3弾 (アナログ・レコード)
SSCH-003 「離れられないあなた」「氷雨」ほか中国語歌唱全10曲を収録。
テレサ・テン≪全曲中国語歌唱≫第4弾 (アナログ・レコード)
SSCH-004 「香港の夜」「⼆⼈でお酒を」ほか中国語歌唱全12曲を収録。
Stereo Sound ORIGINAL SELECTION Vol.5
『テレサ・テン』SACDシングルレイヤー + CD SSMS-037〜038「つぐない」「アカシアの夢」ほか日本語歌唱全15曲を収録。
Stereo Sound ORIGINAL SELECTION Vol.6
『テレサ・テン』SACDシングルレイヤー + CD SSMS-039〜040「時の流れに身をまかせ」「スキャンダル」ほか日本語歌唱全15曲を収録
執筆者紹介
’78年FMレコパル編集部に参画して以来、約20年にわたりFMレコパル、サウンドレコパルと、オーディオと音楽の雑誌編集者を長く務める。誌上では、オーディオのページを担当するかたわら、新譜ディスク紹介のページを長く担当した。海外のオーディオ・メーカーの取材の際、宿に戻り遠く離れた土地で日本のボーカルを聴いてジーンときたという体験をし、ボーカルがいかにオーディオに人の心にダイレクトに響くかに開眼した経験をもつ。
ポップスやロック、ジャズ、クラシックといった多方面のアーチストと交流を深めるうちに、音楽はジャンルではなく、その楽しさにおいては、なんら変わらないことに確信を持つ。ハイレゾの今日に至るも、ますます、お薦めボーカルをジャンルを取り払って探していきたいと思っている。
好評連載中の『MQAで聴くクラシックの名盤』はすでに連載が17回を数えている。
第1回 ナナ・ムスクーリ〜ベスト・セレクション(MQA-CD)
「眼鏡美人の歌姫」といえば、ナナ・ムスクーリが挙げられると思います。ナナ・ムスクーリの歌声は、まさに「天使の歌声」と活躍した当時いわれたボーカルです。ちょっと細身で、よく女声特有の、高音が、きんきんと響かせるすることがなくて、美しく清らかで、どこまでいっても、しみじみと、実に清楚に人生を(続きを読む)
「バルバラ(’30−’97年)は、ピアノ弾き語りの自作自演のフランスのシャンソン歌手です。バルバラの名前はずっと昔に、ステレオサウンド誌で、著名なオーディオ評論家・故瀬川冬樹氏(’35−’81年)が、ご活躍されていた’70年代後半に、よくバルバラのアナログ盤を試聴に使っていらしたのを思い出します。(続きを読む)
第3回 ダイアナ・ロス エッセンシャル・ベスト(MQA-CD)
ダイアナ・ロスの豪華なベスト盤が、MQA-CDで聴けるようになりました。1曲(1曲だけ’08年リリース)をのぞいて、’71ー’81年にリリースされた楽曲からピックアップされたベスト盤です。CDが登場したのは、’82年のことなので、最初のリリースは、アナログ盤でリリースされていたナンバーです。’80年当時(続きを読む)
第4回 コニー・フランシス ベスト・セレクション(MQA-CD)
コニー・フランシスは、アメリカのキュートな女性ボーカルです。キュートとは「(若い女性や子どもが)きびきびしていてかわいいさま」をいいます。ちょっと小悪魔的でやんちゃなティーン・エージャーといった風情。主に活躍したのは、’50年代から’60年代。それが、今回、MQA-CDとなって見違えるほど(続きを読む)
第5回 リッキー・リー・ジョーンズ /浪漫 RICKIE LEE JONES (MQA-CD)
ベレー帽を小粋にかぶり、伏し目がちに極端に短くなったシガーを口にくわえた女性が、リッキーその人です(当時 24 歳)。このジャケットを撮影したのは、高名な写真家ノーマン・シーフ(アップルの創業者スティーヴ・ジョブズのフォトで有名です)。私がリッキーのアルバムと最初に出会ったのは、いったいいつ頃 (続きを読む)
第7回 ジョニ・ミッチェル (MQA-CD)
ジョニ・ミッチェルは、アメリカ西海岸、ウェストコーストを代表するシンガーソングライターです。もう少しいうと、カリフォルニア州北部バーバンクを中心とするアサイラム・レコード(’71年デイヴィッド・ゲフィンとエリオット・ロバーツが設立、現在ワーナーミュージックの傘下にあります)に集う面々の音楽が、ウェストコースト・サウンドまたは、ウェストコースト・ロックと呼ばれる音楽で(続きを読む)
第8回 アニタ・ベイカー (MQA-CD)
’86年アルバム・リリースされたアニタ・ベイカーの『ラプチュアー』は、よくFM放送から流れていた音楽でした。一日の仕事が一段落する夕方近くになると、車の中から流れてきたのを覚えています。FMが普及する前は、在日アメリカ軍のFEN(’97年にAFNと改称)が、ノンストップで音楽を流していて、早い物好きの音楽ファンはこぞってFENの早口のDJの放送を聴いていました。 ’80年代後半は(続きを読む)
第9回 サビーヌ・ドゥヴィエル
今日はクラシック、それもきっと誰もがご存知のモーツァルトです。といっても、大仰に構えることはなく、ちょうどウィーンにある洋菓子店カフェ・モーツァルトのチョコレート菓子・クーゲルのように、口に入れると、甘さがあふれるような新鮮さに満ちている音楽です。コロラトゥラ・ソプラノという高音域の女声の歌い手サビーヌ・ドゥヴィエル(フランス)が、小さな18世紀当時を思わせる (続きを読む)