メリディアンのリファレンス・ヘッドフォンアンプ試聴 第2弾

実力派ヘッドフォン4モデルのパフォーマンスを楽しむ

岩井  喬


 

 メリディアンPrime Headphone Amplifier(以下、Prime)はコンパクトながらメリディアン伝統のD/A変換技術や最新の注目フォーマット“MQA”への対応を実現するヘッドフォンアンプとしてその存在が注目されるようになってきた。

 

 前回のレビューでは様々な人気ハイエンド・ヘッドフォンの数々と組み合わせての標準的なヘッドフォンアンプとしての実力を試してみたが、今回は2015年秋に発売されたヘッドフォンの新モデルも交えつつ、Φ6.3mmヘッドフォン出力を2つ使った“デュアル・ドライブ”におけるサウンドについても迫ってみたい。

 

■まず密閉型の定番。進化したオーディオテクニカのアートモニターで音源の空気感を味わう

 
まずヘッドフォンの新製品として選んだのはオーディオテクニカの“アートモニター”シリーズ・密閉型トップ機となる「ATH-A2000Z」だ。前モデルATH-A2000Xに比べ誇張感なく音離れの良い澄んだ高域が特長であり、ハイレゾ音源の空気感の再現性の高さはクラス随一のクオリティを持つ。

 

シリーズの出自であるモニター系の流れを感じさせる音像のせり出してくるかのような、フォーカス良く鮮やかに定位する描写性に加え、余韻の清涼感漂う爽やかな表現が白眉なのである。今回のリニューアルでパーメンジュール磁気回路をドイツ製のものに変更するとともに、ドライバーユニットの振動板に超硬質カーボン材による特殊コーティングを施すなど、内部構造も含めて大きな刷新を図った効果だろう。

 

Primeとの組み合わせでは管弦楽器やピアノなどの高域描写をブライトにまとめ、低域も輪郭感良く伸びやかに表現し、硬さがないメリハリを持たせた鮮明なサウンドである。オーケストラの響きは深く広がり豊かで艶やかだ。ヴォーカルはハリ良くシャープなタッチで分解能高くリアルに描く。その口元の表現も克明で明晰なダイレクト感の強いモニター調の傾向を感じることができた。

 

ジャズソースのホーンセクションやドラムのシンバルワークも太さとエッジ感のバランスが良く、シンバルのたわむ振幅の波も鮮明だ。ウッドベースはむっちりとした弾力感を持ち、ロックのリズム隊も深くパワフルに響く。ギターワークもシャープな描写で、ヴォーカルやコーラスワークも分離良く明瞭に浮き立つ。音像の密度ある描写が得意な密閉型ながらも誇張感が少なく、中高域の詰まりがないストレスフリーなサウンドが持ち味といえるだろう。

 

■ベイヤーダイナミックT1 2nd Generationの進化したパフォーマンスを体感。

 前世代にないゴージャスな雰囲気を再現してくれた。

 
続いてはインピーダンス値が600Ωというアンプ泣かせのヘッドフォンとして知られるベイヤーダイナミック「T1」の後継モデル「T1 2nd Generation」だ。T1については前回シングルエンド接続でのレビューを行ったが、今回その心臓部であるテスラドライバーそのものから改良が加えられ、高域のピーク感(共鳴)を抑えつつ、バッフル素材や形状、ユニット配置を見直し、内部パーツから発せられる振動ノイズを抑え込んでいる。これにより解像度の高い緻密で繊細な表現力に加え、低域の豊かさも増し耳馴染みの良いサウンドを獲得したのだ。

 

まずはPrimeとのシングルエンド接続であるが、ローエンドの伸びが穏やかでオーケストラの管弦楽器も潤い良く澄んだタッチで描いてくれる。ホールトーンは豊潤で抑揚良く、音離れの良いサウンドだ。中低域の豊かな響きによって余韻はウォームなふくよかさも併せ持っている。ヴォーカルはハリ艶良く滑らかな質感で、ボディはふっくらとした自然な厚みを持ち、口元はシャープに浮き上がる。

 

シンバルやスネアなど、アタック感の強い中高域については倍音の煌めき感も強く、多少硬い印象もあるが、ピアノやホーンセクションの輝き良くシャープでエッジの効いたプレイ感はキレ良く爽快だ。ロックギターはフラッシーな旋律が際立つがエフェクト処理の細やかな表現、リズム隊のどっしりと響くファットなベース感など、ゴージャスな雰囲気を味わえる。ストイックで硬めの印象があったT1とは大きな違いがあることをPrimeの実直なパフォーマンスで実感することができた。

 

 

■音楽の表情がより豊かに楽しめるデュアル・ドライブ接続。その上質な音質に大満足。

 

 
ここでPrimeの持つ特別な機能、デュアル・ドライブの能力も確認してみよう。PrimeにはΦ6.3mmヘッドフォン出力端子が2系統用意されており、各々別にアンプが設けられている。デュアル・ドライブでは2系統の出力を両方使い、ヘッドフォンの左右ドライバーへグラウンドも分離した状態で伝送を行う駆動方式だ。4つのアンプを使ったBTL接続のバランス駆動とは違うものの、チャンネルセパレーションの向上やグラウンド分離伝送によるS/N改善といったメリットがある。ケーブル着脱可能なT1 2nd GenerationにはオプションでXLR4ピンタイプのバランス駆動用ケーブル「B CABLE T1 2G」が用意されているので、このB CABLE T1 2Gとオヤイデ製のXLR4ピン→TRSプラグ×2変換ケーブルを用いてデュアル・ドライブを試してみた。

 

まず大きな変化として感じるのが音場の透明感だ。中低域の音像は密度高く引き締まり、分離良く描かれ、パートごとの重なりも立体的に捉えられる。シャープなタッチで描かれていたホーンセクションやピアノ、シンバルといった高域パートの楽器はボディ感が増し、アバレなく丁寧に描く。分離良く滑らかでヴォーカルもフォーカス良く定位するが、ボディ感もしっかりとついてくる。

 

オーケストラのハーモニーも制動力が向上したかのようなクリアさで、管弦楽器のスムーズな立ち上がりは非常にリアルだ。低域のふくよかな響きも芯が分かるようになり、にじみのないナチュラルな余韻を感じられるようになった。ロックのリズム隊も締まり良く音場の見通しが向上し、ギターワークやヴォーカル、コーラスの細やかなニュアンスを伸び良く表現。S/N良い空間性も素晴らしく、余韻に含まれる倍音の潤い感も誇張なく自然に拡散してゆく。より上品に鳴らし込むにはデュアル・ドライブが圧倒的に優位といえよう。

 

■人気のシュアーSRH1840をチェック。シュアらしい、素直でしなやかな音の魅力を体感。

 
さらにデュアル・ドライブの実力を確かめるべく、前回レビューで用いたゼンハイザー「HD800」とシュア「SRH1840」についても検証を行うこととした。ケーブルについては手元にXLR3ピン×2のバランス駆動用のものがあったので、特別にオヤイデ製XLR3ピン→TRSプラグ×2変換ケーブルを用意。まずはニュートラル基調のSRH1840から確認してみたが、こちらも分離良くスムーズで透明感の高いサウンドに変化。ヴォーカルは肉付き良くなり、口元のニュアンスもナチュラルで潤いのある柔らかなハリが感じられるようになった。

 

オーケストラのアタックもスッと立ち上がる瞬間の空気感を鮮明に描き出す。ハーモニーも流麗で、低域の伸びのくすみ感がなくなり、ダンピングの良い描写により音場も奥行き深く自然な潤いを感じ取れた。アタック&リリースのキレも向上しており余韻の消え方もリアルだ。ロックのリズムやシンバルワークも落ち着きが増し、キックドラムのリリースでわずかに残る胴鳴りの余韻も細やかに拾い上げる。ギターやコーラスの重なりも分離良く浮き上がり、素直でしなやかなサウンドを味わうことができた。

 

 

■ゼンハイザーHD800のデュアルドライブで、自然体のリアルテイストを堪能。

  最後にHD800でのデュアル・ドライブ試聴であるが、弾力良くまとまる低域の自然な伸びやかさ、粒立ち細かく流麗でウェットな高域の表現が上品さをより良く引き立てているようだ。S/N良くステージの広い音場へ放たれるオーケストラは細やかなタッチを一つ一つ丁寧にトレースしつつ、瑞々しく艶やかなハーモニーで華麗に描き切る。空間の情報量も多く、アタック&リリースの表現も丁寧だ。個々のパートが立体的かつスムーズに浮き上がり、ヴォーカルも雑味のない澄んだ表現としてくっきりと表現。

 

ロックにおいても前後感の鮮明な描写力は変わらず、リズム隊を引き締め良くまとめ、ギターのエッジが効いた輪郭感と粘りを生むボトムの響きもストレートに描き出す。ホーンセクションも潤い良くしなやかな旋律を聴かせてくれた。ワンポイント収録ソースではステレオ空間のシームレスな定位を違和感なく再現し、リアルで濃密な音場の空気感までダイレクトに味わうことができた。

 

品の良い爽やかさがどことなく硬い表現に繋がっている印象もあったシングルエンド接続のサウンドと比較し、非常に有機的で朗らかな、ナチュラルかつ上質なサウンドだ。バランス駆動とは一味違う、肩肘を張らない自然体なリアルテイストを堪能できた。

 

 

2016 Takashi Iwai

■再生環境:Mac Book Pro+Audirvana Plus(Mac OS用 有償プレーヤーソフト)

 

■試聴ソフト

 

【クラシック】
・イ・ソリスティ・ディ・ペルージャ『ヴィヴァルディ:四季』~春(192kHz/24bit)
・飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』~第一楽章(96kHz/24bit)

【ジャズ】
・『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』~届かない恋(192kHz/24bit)

【ロック】
・デフ・レパード『デフ・レパード』~レッツ・ゴー(48kHz/24bit)

【ポップス】
・シカゴ『17』~ワンス・イン・ア・ライフタイム(192kHz/24bit)
・Suara「不安定な神様」(96kHz/24bit)
・長谷川友二『音展2009・ライブレコーディング』~「ゲット・バック」

(筆者自身によるDSD録音:SonicStageMasteringStudioにて192kHz/24bit変換)