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MQA-CDの開発者が設計したMQAデコーダー搭載機
Meridian218を聴く(後編)
文:橋爪徹
ディスク再生にこだわるメリディアンのコア技術紹介
では、後編の試聴前に、注目すべきメリディアンの『三種の神器』とも呼べそうな独自技術をご紹介しよう。
まず、メリディアン独自のアップサンプリング。複雑なデジタルフィルターによって音源のサンプルレートを拡張し、ディテール表現や解像度を向上させるもの。アップサンプリングは何回(何倍)行うかより、いかに正確に行うかが問われる、というボブ・スチュアート肝入りのアルゴリズムが採用されている。
次に、アポダイジングフィルター。自然界ではエコーは必ず音の発生後にしか存在しないものだ。しかしデジタルの世界では音の立ちがり前にもエコーノイズが生じている。アポダイジングフィルターは音の立ち上がり前に生じるプリエコーと呼ばれる D/A 変換特有のノイズを抑えることで音楽の表情をより立体的に浮かび上がらせる。このメリディアンの画期的な着眼点は後に MQA へと発展した原点とも言えるものだ。
アポダイジング・フィルター、FIFOメモリー、独自のアップサンプリング技術は
メリディアンのフラッグシップであるUltra DAC(250万円)などのハイエンド機
でも採用されており世界のDSP(デジタル音声処理)技術を一歩リードしている。
そしてFIFO バッファリングはD/A 変換の大敵であるジッターノイズを抑えるメリディアン独自のクロック回路だ。メリディアンは複数の小指の先ほどもない小さなファースト・イン・ファースト・アウト・メモリ(First In、First Out)を複数個、スマートに組み合わせてジッターを大きく低減させる。このジッター(時間精度のゆらぎ)ノイズはディスクを回転させて信号を取り出すCDで特に大きな影響があると言われている。
218の外観は簡素だが中身はハイエンドモデル同様、高密度8層基板を採用しクラスを超えたパワフルなDSP回路が構成されるなど、この価格帯として非常に贅沢な作りこみがなされている。ここで紹介したような独自のアルゴリズムによるD/A変換システムが贅沢に組み込まれた製品の大半は100万超えの高級品ばかりだ。日本の製品や海外のハイエンド製品でも既成のLSIチップを搭載しているものが多い。
こうしたメリディアン独自の技術は、果たしてハイレゾ再生のみならず、既存のCD再生でも生かされているのだろうか。前編ではMQA-CDで聴いたのだが、今回は普通のCDでもその効果を検証してみることにした。
普段聴きなれている普通のCD音源やBDでMeridian218を聴く
それでは筆者が普段から聞き込んでいるお気に入りのCDを聴いてみた印象を記して行こう。
佐藤嘉風 TRULY TRULY DO から「Because Of You」
一聴してすぐ分かったのは、音場空間の整理がされたこと。CDなのでハイレゾのそれには及ばないものの、コーラスの定位が自然になり奥行き感がプラスされた。左右の定位も明瞭になり、同時に奥行きの表現が豊かになっている。音像もすごくクリアなのだが、何より音の立ち上がりがとても俊敏でリアルだ。立ち上がりのリアリティは、前述したアポダイジングフィルターが効いているのは想像に難くない。
218 は、音楽のリアリティを損なっている CD 特有のノイズを巧みに抑制しフォーカスまで改善する。だからはっきり音の定位にも変化が見られたのだろう。こうして 218 で聴いていると、デジタル音源であることを忘れさせてくれる。録って出しの鮮度が感じられて心地よい。
DTM ステーション Creative より小寺可南子「Sweet My Heart」
インディーズ作品ながら、DTM 界隈では著名なライター藤本健氏と作曲家の多田彰文氏がプロデュース。前提として非常に音のいいソースだが、もうハイレゾ版いらないんじゃないかと思えるくらい 218 で聴く音は素晴らしい。ディテールがクッキリと表現された打込みトラックと滑らかなバイオリン、ボーカルはトランジェントも良好で実在感が格別だ。CDからここまでの情報量が取り出せるのかと、驚嘆する。
次は TV アニメの劇伴から「ふらいんぐうぃっち」。
アニメサントラとしては、音圧も控え目で生楽器の質感を大事にマスタリングされたお気に入りの1枚だ。表題曲を聴く。
小編成な管弦楽で構成された本作。パーカッションは打込みだが、他はほぼ生演奏だ。一つ一つの楽器音が、精細に描かれており、音像がハッキリと見える。高解像度でトランジェントが特に良い。管楽器やストリングスが立ち上がるときに、生演奏のような鋭さと滲みのない音像が次々と現れるため最初は驚く。しかし、聴いている内にライブ演奏のようなリアルさに集中して入り込んでいた。
以上の通り、普通のCD再生でメリディアンお家芸の D/A 変換技術の優秀さを思い知らされる試聴結果となった。
最後に、ブルーレィの再生音をチェック。
ブルーレィディスクの場合、光出力や同軸出力の場合はオリジナルのまま出力されずに、規格上 48kに制限されるなど制約がある。筆者としては非常に残念だが果たして 218 でどのぐらいのレベルで再生できるのか試してみた。
まずは、ネットフリックスのオリジナル TV アニメ「A.I.C.O. Incarnation」を視聴する。
こちらは 48kHz 制作の作品。セリフ、効果音、劇伴、すべて非常に高精細だ。センタースピーカーがなくてもセリフが中央に浮かび上がるように感じられ、分離や音場表現がとても優れていることが分かる。
続いて、洋画から「ジュラシックワールド 炎の王国」
こちらはプレーヤー側でマルチチャンネルからPCMの2chへ変換する過程でダイナミクスが圧縮されてしまったように感じた。それでも音の迫力は満点である。恐竜とともに火山から逃げるシーンでは、SPECアンプの圧倒的な駆動力とも相まって、噴石の墜落や恐竜の足音の洪水に見ているこっちも怖くなった。
AV アンプを持っていない方なら、映画やドラマ、ライブなどを楽しむときに 218 をぜひ活用して欲しい。
その音はハイエンド
外観からの想像を超えたアナログサウンドを体感
筆者がオーディオに求める基本は自然な帯域バランス。218を聴いてみて感じるのは、原音に対する確かなリスペクトの精神だ。全帯域のバランスが良く、余分な音がついてこない。
ここでいう原音とは、デジタル・データとしてのマスターのことではなく、録音現場で鳴っているあの音のことを指す。マイクで拾ってアナログコンソールに立ち上がっている生の音だ。
筆者は Beagle Kick の活動で録音やミックスに立ち会うようになって、音の鮮度の善し悪しが直感的に判別できるようになってきた。これは理屈では無く、アーチストと真剣に向き合い現場で訓練されて体得したものだ。こうした現場の『音の鮮度』をベースにした自分の感性で「違和感がない」と太鼓判を押せる。
Meridian218 は小さいながらもその音は間違いなくハイエンドだ。スタジオの生音を彷彿とさせるその表現力は、MQAで確立した革新的なデジタル音声信号処理テクノロジーと哲学に支えられているものだ。それは決して無機的なデジタルの世界ではない。音楽的で没入型のアナログの世界の素晴らしさを体験させてくれるものだった。
引き続き、話題の統合型音楽再生ソフト Roon 対応など 218 の拡張性についてもレポートしていきたい。今までハイレゾに興味はあったけれど主に CD でオーディオを楽しんできた方にも是非、聴いてみて欲しい一台だ。
2019 Tohru Hashidume
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《主な試聴機材》
スピーカー:DALI:RUBICON2
パワーアンプ:SPEC:RPA-W1ST
ユニバーサルプレーヤー:OPPO BDP-103DJP
DAC/プリアンプ:Meridian 218
プロフィール紹介 橋爪 徹
静岡県出身、名古屋工学院専門学校 電気工学科を卒業後に上京。声優を目指し奮闘する中で、音響エンジニアとしてセミプロ活動をはじめる。10 年以上音声コンテンツの制作に関わったのち、そのスキルや人脈を生かしてハイレゾ音楽制作ユニット Beagle Kick を立ち上げる。この取り組みがオーディオ業界の目にとまり、2014 年よりオーディオライターとして活動を開始した。2017年には、自宅に念願の防音試聴室”STUDIO 0.x"を完成。ライター、エンジニアとしての活動の幅をさらに広げている。